IWC Cal.853 |
やっと入手することができた憧れのIWCです。 専門家の間でもオールドインターの評価は非常に高いですが、実際に手にしてみると、その造りの良さと気品漂う雰囲気に納得させられます。 IWCは100年以上の歴史をもつスイスの老舗メーカーとしては、意外にもアメリカ人によって創業されました。アメリカ・ボストンの時計職人であり、時計製造会社F・ハワード&カンパニーの社長だったフローレンス・アリオスト・ジョーンズはアメリカの最先端技術と賃金の非常に安かったスイスの労働力を結びつけて、アメリカ市場向けの高品質ムーブメントと時計部品をスイスで製造しようと考え、時計職人であり実業家でもあるヨハン・ハインリッヒ・モーザーとともに、1868年に時計製造会社を創業、アメリカに販路を確保していたこともあり、”International Watch Company ”という名称がつけられました。 このころ多くの時計メーカーはジュネーブ、ラショード・フォン、ビエンヌ等スイス西部に工房を構えることが多かったのですが、IWCはあえてスイス北東部のSchffhausen(シャフハウゼン)を選びました。これは、この地域にライン川の水力を利用した大規模発電施設の建設が進められていたからです。 創業から数年後、IWCはスイス人の所有となりました。 それからしばらくして、"Probus Scafusia" (プローブス・スカフージア)、すなわちシャフハウゼンの優秀な、そして徹底したクラフトマンシップと言う製品哲学が掲げられ、今もなおIWCのモットーとして同社のスタンプにも採用されています。 |
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かつてスイスの有名メーカーは自社の技術力を誇示すべく、こぞって天文台コンクールへの出品を行っていましたが、IWCは対照的に一切タッチせず、それ以上の厳しい検査基準を独自に設けて自社の製品を市場へ送り出していました。こういった企業姿勢もIWCが支持される理由のひとつではないでしょうか。 この時計はシリアル・ナンバーから1958年頃の製造だと思われます。年代のわりに金無垢のケースはほとんど無傷で、磨きをかけた形跡もなく、エッジのきいた素晴らしいコンディションを保っています。 |
アイボリーの文字盤は、非常に光沢のある綺麗な表情をしています。この絶妙な色合いは経年劣化によるものなのか、製造当初からのものなのか不明ですが、何とも形容し難い良い雰囲気です。 バーインデックスにドルフィン・ハンドの組み合わせは、まさにIWCを象徴するシンプル極まりないデザイン。外周のミニッツマーカーのドットポイントはプリントではなく、ダイヤルに金属のボールを埋め込んだ”パール・ドロップ”手法によるものです。このへんもパテックを彷彿させる手間を惜しまない丁寧な作りこみをしています。 |
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自動巻き機構の最大功労者と言えば、いち早く全回転式ローターを採用し、切替車を用いた両方向巻上げ機構を完成させ、その後の自動巻き開発に大きな影響を与えたロレックスが有名ですが、クォーツショックで姿を消してさえいなかったら、ロレックスの"パーペチュアル機構"を遥かに凌駕する機構として自動巻き分野に君臨していたと言われているのが、この時計にも採用されている"ペラトン・システム"です。 ’40年代末にIWCの技術部長だったアルバート・ペラトンが考案、開発した独自の自動巻き上げ機構で、回転するローターの裏側にハートカムを設け、ツインルビーを回すことでゼンマイを巻き上げる仕組みになっています。巻き上げ効率も高く、バランスのとれた無駄のない構造で耐久性も高いことから、自動巻き機構の最高峰との呼び声もあるようです。 |
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ローターを外したとき、ローター芯を取り囲むようにカタツムリみたいな構造の部品が配置されています。これがロッキングバーで、アーム先端のルビーローラーがローター同軸にあるハートカムの動きを捉え、ロッキングバーを左右に揺れ動かし、大小2本のツメレバーを介して輪列の回転運動となります。ハートカムが左右どちらに回っても、常にラチェットギヤを一定方向に回転させる構造となっています。 ペラトン・システムの場合、バネを内蔵したスプリングブリッジがローター自体を支え、衝撃を吸収するため、他の自動巻き機構に比べローター芯が極めて細くなっています。これにより磨耗によるダメージが少なくなり耐久年度も向上するとのことです。 |
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IWC初の自動巻きとしては幻のムーブメントと呼ばれるCal.81がありますが、ペラトン・システムを初めて採用したのは次機のCal.85からと言われています。 85系ムーブメントは、初期型のCal.85から最終型のCal.8541まで基本構造は変わりませんが、テンプ周り等に若干の変更が加えられています。85は生産量が少なく、すぐに852が誕生しますが、このときに平ヒゲからブレゲヒゲに変わり、テンプに緩急針微調整装置が付きます。これはロレックスのマイクロステラスクリューと同じ構造です。 この時計に搭載されているのは、85系第3世代となるCal.853です。16本の補正スクリューを配したチラネジテンプは継続されていますが、テンワの腕に取り付けたネジにより緩急針の微調整を行う方式に変更されました。これはパテックのジャイロマックスと同じ方式です。 |
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この時代のIWCのムーブメントは部品ひとつひとつに厚みがあり、細部にわたって面取りやペルラージュ等の丁寧な仕上げが施されているため、非常に耐久性に優れていると言われ、専門家の中にはパテックと同等の評価をしている人もいます。 IWCで自社生産したムーブメントについては、現在でもシャフハウゼン本社で出自証明と歩度証明を取ることができます。これは本社に出荷された全てのムーブメントについての記録が残っているからこそ成し得ることで、けっこうスゴイことだと思います。いつか私もこの時計の証明書を手に入れたいですね。 |
裏蓋はパッキン入りのスナップ式で、ある程度の防水性は確保されていたようですが、何といっても半世紀前のものなので、現在は非防水として取り扱わなくてはいけませんね。 ケースバックも非常に綺麗な状態が保たれていて、ヘアラインも残っています。このケースバックの仕上げを見ても、当時のIWCの真面目な仕事ぶりが窺がえます。 尾錠は金バリの純正品、当時のものかどうかは定かではありません。 全体的に見て、当時のIWCの時計は本当に高品質で気品に満ちた素晴らしいものだと感じます。シンプルすぎるが故に、時計にあまり興味のない人から見れば、いわゆる”オヤジ・ウォッチ”に見えるかもしれませんが、時計好きになればなるほど、その魅力にとりつかれてしまうのは間違いありません。
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IWC Calibre85 Movement Family |
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キャリバー | 85 | 852(*1) | 853(*1) | 854(*1) | 8541B* |
生産年 | 1950〜51 |
1952〜58 (*1953〜58) |
1958〜63 (*1959〜64) |
1964〜76 (*1967〜76) |
1967〜76 |
生産数 | 8400 |
49200 (*13200) |
85200 (*55200) |
40200 (*?) |
? |
ライン | 12.75 | 12.75 | 12.75 | 12.5 | 12.5 |
幅 | 29mm | 29mm | 29mm | 28mm | 28mm |
高さ | 5.45mm |
5.60mm (*6.40mm) |
5.60mm (*6.40mm) |
4.85mm (*5.90mm) |
5.90mm |
石数 | 21 | 21 | 21 | 21・23・25 | 25 |
パワーリザーブ | ? | 42h | 42h | 42h | 42h |
テンプ | チラネジ | チラネジ | チラネジ | スムース | スムース |
バランスタイプ | ? | ステラスクリュー式 | ジャイロマックス式 | ジャイロマックス式 | ジャイロマックス式 |
ヒゲゼンマイ | フラット | ブレゲ | ブレゲ | ブレゲ | ブレゲ |
振動数/時 | 18000 | 19800 | 19800 | 19800 | 19800 |
備考 | (*)は末尾に1が付くカレンダー付き機械 | ハック機能 |
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